ニール・ジョーダン監督の『プルートで朝食を』を観た Caragh さんから、感想をいただきました。キリアン・マーフィーが主演です。
『プルートで朝食を』を観て
[by Caragh, 2006年6月]
「物語だと思わなければ、人生なんて辛すぎるわ」…この言葉にまず惹かれて、観てきました。
物語は女装した主人公、キトゥンが乳母車を押すシーンから始まります。それに続くコマドリのシーンは空撮が美しくて、あっという間に物語の世界へ吸い込まれてしまいました。
映画を通して脳裏に浮かんだのは、「自分の居場所」「自分らしさ」。時代や場所がどうであれ、世の中の誰もが人生のどこかで一度はこれらを探し求め、その過程で悩んだり、憂いたりすると思うのですが、彼(彼女?)もまた同じです。愛らしいキトゥンの行く末には、いつだって困難が待ち構えています。しかし涙を見せることなくそれをお得意のファンタジックな世界につめこんで、母を探し愛を求める旅を続けるのです。自分の境遇や親友の死など、普通なら哀しい、辛いと思うことを笑いに包んでしまうキトゥンの生き方が、アイルランドそれ自身を象徴していたようで印象的でした。
作文の先生が書く題材の例としてイースター蜂起を挙げたり、デリーの事件が話題にのぼるなどアイルランド近現代史を知らないと楽しめないところもあります。しかしIRAやテロリストはあくまでも映画の一要素として描かれているにすぎません。予告を観る限りでは何だか暗い映画のように見えますが、音楽やファッションなどからむしろ 70'sファンの方が楽しめる映画です(実際に私がそうなのですから自信をもって言えます)。キトゥンの身につけていた立ち襟のレザーコート、ボウタイのついたラメニット、真っ赤なプラットフォームシューズにレトロなスーツケース…古着好きなら真似したくなる着こなしがいっぱいです。音楽の使い方も、センスがいいだけではなくその歌詞と場面とをきちんと合わせているところなど、ただならぬ映画という感じがしました。冒頭で使われた音楽、The Rubettes のSugar Baby Love (名前でわからなくても、聞いたことあるはず!)が、ラストシーンで再び流れ、旅の終わり、そして新たな旅の始まりを予感させます。
何か大切なものを見つけた、そんな気分にさせてくれる、可笑しく、時に哀しく、そして幸せになれる映画でした。
作品 | プルートで朝食を | Breakfast on Pluto | |
(2005年 愛・英) 135分 | |||
監督 | ニール・ジョーダン | Neil Jordan | |
出演 | キリアン・マーフィー | Cillian Murphy | |
リーアム・ニーソン | Liam Neeson | ||
スティーヴン・レイ | Stephen Rea | ||
ブレンダン・グリーソン | Brendan Gleeson | ||
ルーズ・ネッガ | Ruth Negga | ||
ローレンス・キンラン | Laurence Kinlan | ||
イアン・ハート | Ian Hart | ||
他 |
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